上の写真は私が制作した本ばれんを撮ったものです。
版画で欠かすことが出来ないのがばれんです。小学生の時学校で版画の制作を経験された方には竹皮に包まれたばれんはおなじみのものかと思いますが、このばれんの姿形は日本独自のものであることはあまり知られていません。少なくとも江戸時代の浮世絵の制作を担った浮世絵師、彫り師、摺師の分業体制が確立された頃には、現在のばれんの形体が完成されていたようで、ばれんは摺師の道具として摺師自らが制作するものであったようです。
我々が小学校の版画の授業で使った数十円から数百円のばれんは段ボールを竹の皮でくるんだものが多く、ばれんとして版に乗せた絵の具を紙に摺りとる役目は果たしますが、腰が弱く力強い摺りを期待することはできません。一方プロが求めるばれんは、細い線画や細かい彫りをきれいに摺りとる事が出来るばれんや、広い面積をむらなく摺り潰す事ができるばれん等、目的に応じた摺りがおこなえるばれんです。従ってプロの摺師の方は刷りに応じて何枚かのばれんを使い分けておられます。
ばれんの特性は、外側を包んだ竹皮と当て皮の間にある「当たり」を作り出す材料によって決まります。本ばれんを初めとした本格的なばれんは、当たりを出す心材に竹を裂いて縒りあげた縄を同心円状に巻いたものを使います。この竹を縒った縄の編み方しだいで、細い線を摺るための繊細なばれんからむらなく摺り潰すための利きの良いばれんまでを作りだすことが出来ます。
このように竹の心材で作られた本格的なばれんは、摺った時の感覚とその効果は素晴らしいものですが、制作に多大な手間を要するため高価なものとなってしまいます。そこでアマチュアや一般の方が安価で入手出来る代用ばれんが販売されています。これらの代用ばれんは紐を編んで作った縄を硬化剤で固めたものやベアリングを仕込んだもの、またプラスチックに凹凸を付けたものなどがあります。
現在日本においてプロの摺師が使う本ばれんの制作の第一人者である菊英/後藤英彦さんが作られるばれんは、プロの摺師の方を始め、彫りから摺りまでを自身で行う現代版画のプロの方並びに本格的な版画の制作を目指すアマチュアの版画家の皆様に愛用されています。
後藤英彦さんはばれんの制作の傍ら、日本伝統の本ばれんの普及と継承を目的としたばれん塾を2012年より東京の銀座にて開講されておられます。私も2013年からばれん塾に入門し、本ばれんの制作・調整・包み替えなどの技法の指導を受け、現在では自分が使うばれんは全て自分で制作し調整並びに包み直しを行っています。
ばれん塾に関する情報は「ばれん工房 菊英」のホームページにてご確認ください。
今後、ばれんについていろいろと紹介していきたいと思います。